
2025年6月20日 家族の思い出と匂いの記憶

家族の思い出と匂いの記憶
私は、
東京で生まれ、茅ヶ崎で育ち、そして埼玉で過ごしました。
父は、私が生まれた頃から小学校の後半まで、中国に単身赴任していて、会えるのは年に6回ほど。
それでも、幼い私にとって「お父さんの匂い」は、いつだって大好きな香りでした。どこか懐かしくて、仁丹のような、少しだけ薬草のような香り。そこに、パチュリのような墨汁の香りが混ざっていたような記憶があります。
夜遅く中国から帰ってきた父と、母に内緒でこっそりラーメンを作って食べたり、一緒にお絵描きをしたり、本を読んだり。父は、静かに、けれどたくさんのことを私に教えてくれました。
当時、海外に行くことはまだ珍しかった時代。上海や北京の話を聞くのは、私にとってどれだけ新鮮だったことか…。今思い出してもワクワクします。知らない世界の景色や空気が、父の言葉と匂いを通して、そっと私の心にしみ込んでいたのかもしれません。
後に、香港という国に惹かれたのも、きっと父と一緒に観たたくさんの香港映画の影響だと思います。
そんな記憶が、今もずっと心の奥にあって、心から愛する父に、少しでも伝わればいいな…と思っています。
パチュリの香りは、私と父との間にある、大切な手紙のような、そんな香りの記憶です。